長時間労働による離職が特定受給資格者に該当する場合
失業給付の所定給付日数が自己都合退職よりも手厚くなる「特定受給資格者」に該当するための範囲は、様々な事由があり、該当するための基準が定められています。
・ハローワークインターネットサービス 「特定受給資格者と特定理由離職者の範囲の概要」
「2.解雇等により離職した者」の(5)は、長時間の時間外労働が行われたことにより離職した場合が規定されていますが、現行制度を整理すると下表のとおりとなります。
(5) 離職の直前6か月のうち、下表のいずれかの時間数を超える時間外労働が行われたために離職した者。
1 | 3ヶ月連続で45時間 |
2 | いずれか1ヶ月で100時間 |
3 | 連続する2~6ヶ月の期間の時間外労働を平均して1ヶ月で80時間 |
働き方改革法整備省令による改正
働き方改革法が公布された後、その詳細を定める整備省令が平成30(2018)年9月7日に公布されました「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律の施行に伴う厚生労働省関係省令の整備等に関する省令」。
働き方改革法は8本の法律を改正するものですが、整備省令は、労働基準法施行規則をはじめとした15本もの省令を改正するさらに膨大なものとなっています。
この中に、雇用保険法施行規則の改正があり、長時間労働による離職が特定受給資格者に該当する場合の理由についての改正が行われています(31ページ、第7条の改正)。改正後の内容を整理すると下表のとおりとなります。
(5) 離職の直前6か月のうち、下表のいずれかの時間数を超える時間外労働及び休日労働が行われたために離職した者。
1 | 3ヶ月連続で45時間 |
2 | いずれか1ヶ月で100時間 |
3 | 連続する2~6ヶ月の期間の時間外労働を平均して1ヶ月で80時間 |
今は休日労働時間数を含めなくてよいのですが、改正後は、休日労働時間数を含めてカウントしなければならなくなる、という改正です。
労働基準法による上限規制との違い
すでに労働基準法の改正による時間外労働の上限規制の内容を把握されている方は、違和感をもって読まれたのではないでしょうか。
そうです。上限規制については、表の2・3は休日労働を含めるけれども、表1は休日労働を含めなくてよいはずでしょ、という指摘です。
筆者も同様の違和感を感じましたが、どうやら労基法の改正に連動しているようで必ずしも連動していない、注意が必要な改正のようです。信じがたい方は、上記官報の31ページをご確認ください。最近は、法律の改正に用いられる「改め文」ではなく、省令の改正は新旧対照表形式になっていますので、把握しやすいと思います。
もちろん、上記要件に該当するか否かを気にしながら日々オペレーションするわけにもいかないですが、特定受給資格者に該当するハードルが低くなる改正が行われることは事実で「自己都合退職」で退職したはずの方から、離職理由についての疑義がある旨のハローワークからの問い合わせの可能性が増えるということになります。
インターネットの普及により、企業よりも労働者の方が詳しいのではないかと感じるケースが増えてきました。今回のような細かな改正は、大きな改正の影に隠れるような事情が重なると、周知がままならないことも予想されます。
労働者は、ハローワークに失業給付の手続に行ったときに知ることができますが、ハローワークから電話がかかってきて初めて、え、そんな改正あったの?と驚く事態が増えることのないよう、このような細かな改正についても、周知が徹底して行われることが望まれます。
施行日
この改正の施行日は、平成31(2019)年4月1日です。
経過措置
この改正には経過措置が定められていません。
時間外労働の上限規制については、中小企業についての経過措置と、企業ごとの36協定の起算日による経過措置という二つの経過措置がありますが、本改正には経過措置がありませんので、上限規制の経過措置にかかわりなく、一律に平成31(2019)年4月1日からの適用となります。
なお、時間外労働の上限規制についての経過措置を詳しくお知りになりたい方は、小欄の下記の記事をご参照ください。
・平成30(2018)年4月16日付 「改正労働基準法の経過措置①」
・平成30(2018)年11月5日付 「新36協定はいつから適用されるのか」
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