「同一労働同一賃金」はいわばキャッチフレーズ③

2021年5月12日 | から管理者 | ファイル: パート有期労働法.
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「同一労働同一賃金」という用語が生み出している弊害が存在していることは、専門家の間ではむしろ常識であり、多くの専門家がその「同一労働同一賃金本」において、表現の多少の違いはあれど指摘をしているところです(一方で多くの本の表題は「同一労働同一賃金」という言葉を入れざるを得ないのがジレンマかもしれません)。

しかし、多くのマスコミやネット上の記事は、悪気なく「同一労働同一賃金がこの4月から中小企業にもスタート」という表現をしてしまうため、今後も「同一労働同一賃金」という言葉が持つイメージの呪縛から離れられないという現象は残念ながら続いてしまうでしょう。

また、専門家の間では、職務給が一般的な欧州でいうところの(本来の)「同一(価値)労働同一賃金」と、日本で言うところの「同一労働同一賃金」は、まったく異なるといった議論もあります。もちろん本質をつかむためには必要な知識かもしれませんが、企業実務から見たときにはそこまででもなく「不合理な待遇差の解消や是正」を主眼に考えていったほうがよいのではないかと思います。

ガイドラインの愛称

前回指摘したとおり、厚生労働省自らが今回の法改正を「同一労働同一賃金の導入」などと称しているわけではなく、全体の考え方や理念のことを指しているとともに、ガイドラインの愛称として「同一労働同一賃金ガイドライン」と呼ぶこととしているようです。

しかし、このガイドラインの法律上の正式な名称は、次のようなものです。

短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針

またその内容は、

待遇の相違が存在する場合に、いかなる待遇の相違が不合理と認められるものであり、いかなる待遇の相違が不合理と認められるものでないのか等の原則となる考え方及び具体例

が示されたものです。そうだとすれば、

・不合理な待遇差是正ガイドライン
・不合理性判断基準ガイドライン
・非正規労働者待遇改善のためのガイドライン
・待遇ごとの判断事例ガイドライン

などと称した方がよりしっくりとくるのではないでしょうか。

言葉というのは重要で、「まん延防止等重点措置」を「まん防」と称するのは、軽い感じがして効果がなさそうということとなってからはマスコミも「まん防」と略することは避けているようです。このような取り組みがあらゆる用語において必要ではないかと思っています。

説明義務

今般の改正では、短時間・有期雇用労働者に対する説明義務について、下表のように改正が行われました。

改正前 改正後
When What Who
雇入れ時 雇用管理上の措置 短時間 短時間・有期雇用
求めがあった場合 待遇決定に際しての考慮事項 短時間 短時間・有期雇用
待遇差の内容・理由 短時間・有期雇用

待遇差の内容・理由について説明の求めがあったときの説明義務が新設され、この点の説明が可能かどうかが実務上の大きなポイントになります。

昨年の12月になりますが、JILPTが調査結果を公表しています。

・独立行政法人 労働政策研究・研修機構 「 パートタイム・有期契約労働者の雇用状況等に関する調査 」 結果

正社員と「業務の内容も、責任の程度も同じ者がいる」企業において、「不合理な待遇差はない」という回答が 79.7%にのぼるものの(16ページ)、待遇差についての説明状況という項目になると、「説明できると思う(待遇差がない場合を含む)」との回答は57.6%と半数程度にとどまる結果となっています(18ページ)。
不合理な待遇差があるかないかという点は判断に時間がかかりますし、法的に難しい作業のため、説明ができるか?という観点に立って考慮を始めて行った方がよいケースもあるかもしれません。

履行確保

法の履行確保のための下記措置がそれぞれどのように改正がされたかついて把握しておくと見えてくるものがあります。

・行政指導(報告徴収、助言、指導、勧告)
・勧告に従わない場合の公表
・裁判外紛争解決手続(行政ADR)
・罰則

次回、具体的に見ていきます。

(つづく)


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