給与のデジタルマネー払い解禁に向けた検討②

2021年5月18日 | から管理者 | ファイル: 労働基準法.
Pocket

前回指摘したとおり、銀行口座の開設が難しい外国人労働者への賃金支払について、現金以外の支払方法を確保しようという趣旨で議論がスタートしているはずなのですが、話が意外な方向に広がりを見せています。

高まるニーズ?

令和3(2021)年4月19日に行われた「第168回労働政策審議会労働条件分科会」の下記資料の34ページに、

資料No.1 資金移動業者の口座への賃金支払について課題の整理③

「資金移動業者の口座への賃金支払に関する労働者のニーズと考えられる背景」という項目があるのですが、調査結果を受けて、

約4割の利用者が,自身が利用するコード決済サービスのアカウントに賃金の一部を振り込むことを検討すると回答しており,一定のニーズがあると考えられる

とのコメントが書かれていますが、6割の方は検討すらしない(=必要と思っていない)一方で、4割は検討すると言っているだけで導入したいとまで言っているわけではないとも読めます。また、この背景として、

銀行口座から資金移動業者口座へのチャージを行う手間がなくなること

と書かれています。
筆者自身QRコード決済を利用していますが、チャージは3つくらいボタンを押すだけで5秒もかからずにできるので、チャージが手間と感じたことはありません。
交通系ICカードに券売機で現金をチャージするのとは事情が異なり、同様に銀行のATMやコンビニの端末等を利用して現金からチャージする手法もあるようですが、「キャッシュレス決済」と言っている以上、このような面倒な方法を取っている方はごくわずかと思われます。もしかすると、QRコード決済を使ったことがない方にとってはこういう印象になるのかもしれません。

スマホを忘れたり、落としたり、壊れたりすることもあるので、あらかじめ多額のチャージをしておくというよりは、銀行口座から現金をおろすように、その都度チャージするということで問題ないと考えている方が多いのではないでしょうか。
給与の一部をデジタルで受け取り、残りを銀行口座で受け取れればとても便利といった論調も見受けられますが、企業側の支払の手間が2倍になるだけで、すでに銀行口座を持っている人にとって全体の利便性が格段に上がるという話ではないように思います。

銀行口座の開設が難しい外国人労働者への賃金支払について現金以外の支払方法を確保しようというそもそものスタートに立ち返って、安全性についての議論を冷静に重ねた方が、結果としてスムーズな導入につながるように思えます。

本人同意

銀行振込が解禁された当時は、それまで現金で受け取っていた方にとっては銀行に現金を引き出しに行くという手間が発生したわけで、それまでどおり現金でもらった方がいいと思っていた方が多数だったでしょう。一方、企業にとっては一人一人に現金を渡すために金種をそろえて多額の現金を用意する手間は膨大だったわけで、できれば銀行振込に変更していきたいという方向性だったと思います。

銀行口座のない外国人労働者で現金にて支払いが行われている場合については、同様のことが言えるかもしれませんが、すでに銀行口座を持っている方については、事情が大きく異なってきます。企業側は望まないのに、労働者側が望むという構図です。

そこで上記資料の7ページや10ページにも出てくる「労使協定」という手法がもしかすると活用されるのかもしれません。銀行振込における労使協定は今となっては形骸化していると言ってもよさそうですが、この度新たに加わるスキームにおいて、「使用者の同意」というプロセスを改めて考えてみてもよさそうです。資金移動業を業とする企業(やそのグループ企業)が自社の社員にという話はわかりますが、そうではなく、銀行口座のない外国人労働者もいない企業にとっては、若干寝耳に水な話であり、法律やその改正の趣旨に立ち返って冷静に対処したい改正となりそうです。


タグ:

コメントは締め切りました。