「有給休暇の時季指定義務」の意味を罰則の改正から考える②

2018年10月22日 | から管理者 | ファイル: 働き方改革関連法, 労働基準法.
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現在(改正前)の罰則

現在(改正前)の罰則は、下表のとおりいくつか「項」がある39条全体に対する違反として位置づけられています。

条項 罰則
第39条違反 6か月以上の懲役または30万円以下の罰則

したがいまして、新たに加わる「有給休暇の時季指定義務」が表現される「新第7項」も同じ内容の罰則でよいのであれば、あえて罰則に改正を入れる必要もないわけです。ところが、そうではなく、あえて罰則にも改正が入っているという点を考察していきます。

改正後の異なる罰則

罰則は、当然のことながら、悪質な犯罪ほど刑罰が重くなります。一方、これも当然ながら、刑罰が軽いからといって犯していい罪となるわけではないのですが、この度新設される「有給休暇の時季指定義務」違反は従来の有休の付与義務違反よりも軽い罰則が設定されているのです。改正後の39条関連の罰則は、下表のとおりとなります。

条項 罰則
第39条(第7項を除く)違反 6か月以上の懲役または30万円以下の罰金
第39条第7項違反 30万円以下の罰金

従来からの付与義務の違反(典型的には、請求されたのに付与しない)については、懲役刑の選択肢が示されている一方で、新設される時期指定義務(=第39条第7項)違反は、罰金刑のみです。
もちろん、懲役刑までが課される可能性がどれほどあるのかというと、その可能性は極めて低いわけですが、国としては「請求されたのに付与しない」という違反と、「請求されたら付与はするが、請求されないなら付与しない(=改正後に導入される時季指定義務までは対応できない)」という違反を分けて考えている。すなわち、「請求されたのに付与しない」ことの方がより悪質であると(あくまでも法律の条文上は)捉えていることがわかります。

「請求されたら付与する」の履行確認

さて、もちろん小欄はここで、より刑罰が軽いわけだから時季指定義務なんて守らなくてもいいのでは?といったようなことを言いたいのではなくて、法改正後に新設される時季指定義務を違反したらどうなるのか、ということばかりを心配する前に、まずは、現行制度上の39条違反となっているようなことは(ゆめゆめ)ないかという点について検証、確認しておく必要があるのではないか、ということを指摘させていただきたいのです。

すなわち、新法に基づいて(おおむね)正社員向けに「時季指定義務」を果たすべくきちんと計画して付与したとして、一方で有休請求のあったアルバイトに対しては、現場レベルで「アルバイトが有休なんてとれるわけないでしょ」といったような対応がされていたりすると、本末転倒なことになってしまうおそれがあるということです。

もちろん、そのような心配をしなくてよい会社の方が多いと思いますが、最近見られる記事などが「有休の強制付与違反は罰金30万円、さてどう対策したらよいのか」という傾向の論調になっていることが多くあるため、そこだけではなくて、まずは現行制度上の足元から確認し、対策を進めていく必要がある場合もあるのではないでしょうか、ということです。

正社員の有休取得率が50%を超えているような企業でも、アルバイトに適用される就業規則がなかったりするといった事情等により、アルバイトには日数付与がきちんとできていなかった、何日付与すればいいの?とあわてることがよくあります。

法改正があると改正後のことばかり気を取られることは致し方ないのですが、改正前後の動きをとらえ、改正されない周辺はどうなるのかという観点もあわせ持つことが重要です。

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