「有給休暇の時季指定義務」の意味を罰則の改正から考える①

2018年10月19日 | から管理者 | ファイル: 働き方改革関連法, 労働基準法.
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働き方改革法の改正項目については、いわゆる「高プロ」や「時間外労働の上限規制」「同一労働同一賃金」などが大きく報道されていましたが、一番の本丸と言いますか、幅広い企業に影響がある項目は「有給休暇の時季指定義務」なのだろうと思います。
施行まで半年を控え、9月に省令や通達などの詳細が出そろってきたこともあり、ようやくマスコミ等でも取り上げられることが多くなってきました。ネットも含めて様々な記事が書かれていますが、若干誤解を生みかねない表現もあるように見受けられましたので、あらためて整理させていただくこととしました。

まず、現在の姿の確認から

現行制度を確認すると、今も当然のことながら、付与義務はありますし、それに対する罰則もあるわけです。ちなみに、現在(改正前)の有給休暇の付与義務(第39条)を違反すると、下記のような罰則となっています。

条項 罰則
第39条違反 6か月以上の懲役または30万円以下の罰則

労働基準法の罰則は4段階に分かれていますが、重い方から3番目の罰則の適用となっています。

では、現行の39条違反とは、いったいどういう場合を指しているのでしょうか。一番わかりやすく典型的な例は、労働者が具体的に日付を指定して請求しているのに、(時季変更権を行使できる場合でないにもかかわらず)有給休暇を取らせない場合ということになるでしょう。

実際に罰則の適用となるかどうかは別として、法律の条文上は、現在のところ、こうなっているということです。

今回の改正について「強制付与」という表現を用いる向きもあるようなのですが、罰則との関係で言うと、今も「強制付与」なわけなのです。
今回の改正の説明や表題として「強制付与」という表現を使うと「あれ、今のところは付与は強制されていないのでしたっけ?」と勘違いしてしまうおそれが若干あるような気もしますが、現在は、請求されたら付与すればいいところ、請求されなくても付与しなければならなくなるという意味で「強制付与」という表現を使っているということなのでしょう。

例えば、「うちの会社は有休はない」ですとか、「アルバイトに有休はない」といった会社は、(法律上は)あってはならないわけですが、(現実には)少なからず存在するとして、労働者から請求があったら付与しなければならならず、付与しないと罰則の適用を受ける可能性があるという意味で、付与は強制されているのです。
あたりまえのことといえばあたりまえのことなのですが、現行制度の罰則との関連をまず確認したうえで、何がどう変わるのかを見ていく必要があるでしょう。

ちなみに、厚生労働省など行政がこの間発表しているリーフレットなどは、あくまでも「時季指定義務」という表現を使っているようです。

罰則にも改正が入っています

今回の改正で、39条に改正が入るわけですが、これに伴い、39条違反の罰則にも改正がなされています。整理すると下表のとおりとなります。

条項 罰則
第39条(第7項を除く)違反 6か月以上の懲役または30万円以下の罰金
第39条第7項違反 30万円以下の罰金

第39条第7項とは、「時季指定義務」を内容とする今回新たに加わった項です。労働基準法の4段階の罰則のうち、39条7項違反、すなわち時期指定義務違反については、一段低い、罰金刑のみとして位置づけられることとなるわけです。

これは一体どういうことなのでしょうか。

(つづく)

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