平成30(2018)年3月30日に「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会」の報告書が公表されたことは小欄下記記事でも取り上げさせていただきました。
・平成30年4月25日付 「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会」報告書
報道によれば直ちに法規制を導入することは見送られ、今後労働政策審議会で引き続き検討する見通しである一方、希望、民進両党(法案提出時、現在は国民民主党)が事業者に職場のパワハラ対策の実施を義務づける法案を提出するとの報道もされていました。
現行の各種ハラスメントの防止措置
事業主に課せられた各種ハラスメントの防止措置が現在のところどうなっているかについてまずは整理しておきましょう。
根拠法 | 施行日 | |
セクシュアルハラスメント | 男女雇用機会均等法 | 平成11年4月1日 |
妊娠・出産等を理由とするハラスメント(マタニティハラスメント) | 男女雇用機会均等法 | 平成29年1月1日 |
育児休業・介護休業等を理由とするハラスメント | 育児・介護休業法 | 平成29年1月1日 |
パワーハラスメント | (なし) | ― |
いわゆるマタハラ等の防止措置が義務化されたのは記憶に新しいところですが、このように根拠法が分かれており、パワハラは、その定義も然ることながら、根拠法を一体何法にするのかというところもポイントになるでしょう。
パワハラの根拠法は?
検討会報告書を読みますと、次のようなことが書かれています(16ページのあたり)。
さらに、これらの選択肢も含め、セクシュアルハラスメントや妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントも含めた総合的なハラスメント防止法を創設することも将来的には検討に値するのではないかとの意見も示された。
根拠法が分かれていますと、企業実務においては就業規則等を改正する際に間違いが起こったり、改正が漏れたりするおそれもあるため、理想的には、こちらに書かれているようにハラスメント防止対策を一元化する形式をとるのが望ましいのではないでしょうか。
提出された「労働安全衛生法の一部を改正する法律」
国民民主党による、事業者に職場のパワハラ対策の実施を義務づける法案の内容が参議院の下記WEBサイトに公表されています。
・参議院 「労働安全衛生法の一部を改正する法律案」
この内容を確認しますと、パワハラ防止措置義務を労働安全衛生法の中に位置づけるという形になっています。少し長いですが、以下引用させていただきます。
(業務上の優位性を利用して行われる労働者に苦痛を与えるおそれのある言動に関し事業者の講ずべき措置)
第七十一条の五 事業者は、その労働者に対し当該事業者若しくはその従業者が、その労働者に対し当該事業者以外の事業を行う者若しくは当該者の従業者が、又はその労働者以外の労働者に対し当該事業者若しくはその従業者が、当該労働者との間における業務上の優位性を利用して行う当該労働者に精神的又は身体的な苦痛を与えるおそれのある言動であつて業務上適正な範囲を超えるものが行われ、及び当該言動により当該労働者の職場環境が害されることのないよう、その従業者に対する周知及び啓発、当該言動に係る実態の把握、その労働者からの相談に応じ適切に対応するために必要な体制の整備、当該言動を受けた労働者及び当該言動を行つた者に係る迅速かつ適切な対応その他の必要な措置を講じなければならない。
(第2項以下略)
現在の国会の勢力関係から、この改正法案が可決する見込みは低いと思われますが、こうして実際の条文という形式になって読んでみると、定義の仕方が他のハラスメントに比べてもなかなか難しいものであると改めて感じます。
【この記事の改正データベース(法改部)はこちら】
タグ: パワハラ法制化
コメントは締め切りました。