「同一労働同一賃金」はいわばキャッチフレーズ②

2021年4月19日 | から管理者 | ファイル: パート有期労働法.
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高年齢者雇用安定法が改正され、令和3(2021)年4月1日から「70歳までの就業機会確保」が努力義務となりました。
この改正のことを称して「70歳定年法」と呼ぶ例がありますが、こちらの改正と比較をしてみたいと思います。

厚生労働省のスタンス 考察
同一労働同一賃金 一部に使用 今回の改正そのものを指す呼称として使用しているわけではなく、考え方全体を指す用語(=理念的な意味合い)として、または、ガイドラインの呼称として使用しているものと思われる。
70歳定年法 使用せず 「定年の70歳への引上げを義務付けるものではありません」と否定。

誤解を招く「70歳定年」を否定

厚生労働省は、この改正の内容を伝える下記Webサイトにおいて、

・厚生労働省 高年齢者雇用安定法の改正~70歳までの就業機会確保~

この改正は、定年の70歳への引上げを義務付けるものではありません。

と、冒頭わざわざ赤字でこのように否定しているとおり、厚生労働省自らが「70歳定年法」という用語を使うことはありません。
70歳までの定年の引上げは、努力義務の一つのオプションとして掲げられていますが、「60歳定年」の義務、すなわち、

定年(以下単に「定年」という。)の定めをする場合には、当該定年は、六十歳を下回ることができない。

という第8条の規定に改正が入っているわけではないため、かえって誤解や混乱を招くと考えているのでしょう。
きちんと「70歳就業法」と報道している例もあり、「70歳定年法」という表記を使っているのはほんの一部のマスコミです。
前置きが長くなりましたが、こちらの改正についてはまた追って取り上げる機会があると思います。

「イコール」が求められる労働者の割合

ちょっと古い調査結果になりますが、JILPTの下記調査結果によれば、

・独立行政法人労働政策研究・研修機構 「短時間労働者実態調査」結果

同一賃金(=均等待遇)が求められる割合は、

事業所割合は1.1%、人数割合では0.1%と算出された。

とされています。
すなわち、企業単位でみれば100社に1社、労働者単位でみると、1,000人に1人しかいないということになります。ちなみに、職務の内容をはじめとした様々な事情がすべて同一であるこのような労働者を「通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者」と言います。

逆に言えば、100社のうち99社にとっては、均等待遇が求められる従業員はいないため、「バランス」を取るべき均衡待遇を考慮すればよい、ということになりそうです。

待遇の性質や目的に照らして考える

均等待遇の考え方は、職務の内容をはじめとした様々な事情がすべて同一である場合には、差別的取扱いが一切禁止されるため、賃金などの待遇は同一(=イコール)でなければならない、と比較的わかりやすいのですが、

職務の内容をはじめとした様々な事情 禁止される内容
A 均等待遇 同一の場合 差別的取扱いを禁止
B 均衡待遇 異なる場合 不合理な待遇差を禁止

均衡待遇をとるべきときに、どのような場合が不合理と認められてしまうのか、逆にいうとどのような場合にバランスがとれていると言えるのかがよくわからないわけです。
そこで、今回の法改正において、考慮する際の判断の要素として、

待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるもの

という考え方が加わりました。

すなわち、待遇差があるときに、その待遇差が不合理と認められるかどうかの判断は、個々の待遇ごとに、その待遇の性質や目的に照らして適切と認められる考慮要素で判断されるべきという考え方が示されたのです。

均衡待遇におけるバランスのとり方

企業の従業員に対する待遇(=処遇)は、基本給からはじまって、各種手当、賞与、福利厚生など様々なものがありますが、全体として比較するのではなく、ひとつひとつの処遇を個々に見ていって、その処遇を行う目的や支給要件に照らして考えていかなければならないということで、大きくわけると下表のように二とおりに整理されることとなります。

待遇ごとの目的や性質、支給要件を通常の労働者と比較したときに 短時間・有期雇用労働者の待遇は
均衡待遇 同一の場合 同一の支給をしなければならない
異なる場合 相違に応じた支給をしなければならない

「通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者」がいないのであれば、狭い意味での文字どおりの「同一労働同一賃金」(=均等待遇)は考慮しなくてもよいわけですが、均衡待遇を考慮するなかで、個々の待遇を見ていったときに、同一の支給をしなければならない待遇も出てくる可能性がある、というわけです。

考慮すべき要素となる条件は様々であり、また、待遇も賃金だけでなく教育訓練や福利厚生までを含んで広範なため、あえて標語的なものをつくらなければならない事情がもしあるのであれば「同一条件同一待遇」と言った方がより中身を正確に表すことができるのではないでしょうか。

(つづく)

 

 


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