在宅勤務の費用負担の取扱い③

2021年4月15日 | から管理者 | ファイル: 健康保険法, 労働保険徴収法, 厚生年金保険法.
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2回に分けて、在宅勤務手当の社会保険・労働保険上の取扱いについて、国税庁FAQとの対比を中心に解説を行いました。
最終回は、月変(月額変更届)への影響についてです。

算定・月変の取扱いに関する事例集の改正

「標準報酬月額の定時決定及び随時改定の事務取扱いに関する事例集」というものがありますが、この事例集の改正が行われました。

「標準報酬月額の定時決定及び随時改定の事務取扱いに関する事例集」の一部改正について(令和3年4月1日事務連絡)

改正の内容は、2回に分けて取り上げた二つのQ&Aを「別紙」として参照しつつ、月変などへの影響について、Q&A形式にて考え方を示すものとなっています。
具体的には、15~16ページに「○在宅勤務・テレワークにおける交通費及び在宅勤務手当の取扱いについて」という節が設けたられたうえで、問1~3の3問が新たに加えられています。

問1は交通費について、問2は在宅勤務について、それぞれ報酬等に含まれる場合と含まれない場合の考え方を示していますが、2回に分けて取り上げた二つのQ&AのQ1のそれぞれ(1)と(2)に対応する内容です。

「通勤手当が支払われなくなること」の受け止め方

それぞれの内容は当然同じ内容が書かれていますが、異なる部分を取り上げますと、問1に下記表現が見受けられます。

なお、在宅勤務・テレワークの導入に伴い、支給されていた通勤手当が支払われなくなる、支給方法が月額から日額単位に変更される等の固定的賃金に関する変動があった場合には、随時改定の対象となる。

基本的にはこのような考え方になるのかもしれませんが、実務的にはかなり微妙です。と言いますのも、事由は異なるものの類似のケースとして11ページの問14に、

産休等により通勤手当が不支給となっている事例において、通勤の実績がないことにより不支給となっている場合には、手当自体が廃止された訳ではないことから、賃金体系の変更にはあたらず、随時改定の対象とはならない。

という見解も示されているためです。
通勤手当が支払われなくなったのは「通勤の実績がないことにより不支給となっている場合」なのか、「手当自体が廃止された」のか、いずれに該当するかの吟味が必要です。
業種によって未来永劫にテレワークという場合もあるかもしれませんが、そうではない場合が多いように思います。

随時改定の取扱い

問3には、在宅勤務が支給され始めた場合の月変の取扱いについて、考え方が示されており、内容は段落が4つに分かれています。
3段落目には、

なお、新たに変動的な在宅勤務手当の創設と変動的な手当の廃止が同時に発生した場合等において、創設・廃止される手当額の増減と報酬額の増減の関連が明確に確認できない場合は、3か月の平均報酬月額が増額した場合・減額した場合のどちらも随時改定の対象となる。

と、すぐにはちょっと理解できないようなことが書かれています。
しかしこの考え方は、今回急に出てきたわけではなく、7ページの問5においても同様の考え方がすでに示されていますので、このようなケースに該当する可能性がある場合は参照してみてください。

また、4段落目には、

また、一つの手当において、実費弁償分であることが明確にされている部分とそれ以外の部分がある場合には、当該実費弁償分については「報酬等」に含める必要はなく、それ以外の部分は「報酬等」に含まれる。この場合、月々の実費弁償分の算定に伴い実費弁償以外の部分の金額に変動があったとしても、固定的賃金の変動に該当しないことから、随時改定の対象とはならない。

とあり、このようなケースはたしかに固定的に賃金の変動に該当しないという見解になるのでしょう。
しかしそもそも、一つの手当としてまとめて支払った後に、その内訳を吟味してそれぞれの部分に分けて計算を行い考慮、判断をするというのはなかなか実務的には困難な作業であり、ここに該当するケースがそれほど多いとも思えません。

このように、この事例集は、それぞれのQ&Aが若干矛盾するような内容も含まれているものであるため、自社のケースがまったくそのまま当てはまるのであれば当てはめを行ってもいいのですが、自社のケースが実際にどのようなケースであるかを十分確認したうえで参照するというスタンスでのぞまないと誤った解釈になるおそれもはらんでいるものです。

(終)


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