前回は、国税庁による課税の考え方と、国税庁とは異なる部分、すなわち「交通費」についての考え方についてご紹介しました。
国税庁による課税の考え方を再掲しますと、
A 費用の実費相当額を精算して支給する場合…課税をする必要はない
B 実際にかかった費用に関わらず一定額を渡し切りで支給する場合…課税する必要がある
というものですが、社会保険料・労働保険料の算定基礎となる報酬等・賃金にに含めるべきかどうかという観点についても基本的には下記のとおり、
A 費用の実費相当額を精算して支給する場合…社会保険料・労働保険料の算定基礎となる報酬等・賃金に含まれない
B 実際にかかった費用に関わらず一定額を渡し切りで支給する場合…社会保険料・労働保険料の算定基礎となる報酬等・賃金に含まれる
同様の考え方が一つ目の下記Q&Aの(2)に示されています。
・テレワークを導入した際の交通費や在宅勤務手当は社会保険料・労働保険料等の算定基礎に含めるべきでしょうか?
これは、国税庁による「在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQ」の問1の回答に相当します。厚生労働省Q&Aと国税庁FAQの関係性を整理すると下表のとおりとなります。
厚生労働省Q&A | 国税庁FAQ | |
非算入(非課税) | Q1(2)ロ | 問1前段 |
算入(課税) | Q1(2)イ | 問1後段 |
※「令和3年3月31日掲載分|テレワークの労務管理に関するQ&A」には番号が振られていませんが、便宜的に上に掲げられているものをQ1、下に掲げられているものをQ2と表記します。
具体例
さてでは、これらの基本的な考え方をもう少し具体的にあてはめたときにどうなるかについて、二つ目のQ&Aに書かれています。
・在宅勤務手当のうち実費弁償に当たるようなものである場合は社会保険料・労働保険料等の算定基礎に含める必要はないとのことですが、どのようなものが該当するのでしょうか?
在宅勤務にかかる費用として、下記三つのカテゴリーが掲げられていますが、これは国税庁のFAQとまったく同じです。
(1) 事務用品
(2) 通信費・電気料金
(3) レンタルオフィスの利用料金
事務用品・レンタルオフィス料金
この二つのカテゴリーについては、業務に要した費用がわかりやすいということもあり、
・企業が労働者に金銭を仮払いをした後、業務に要した費用の領収書等を企業に提出して精算
・労働者が業務に要した費用を一旦立替払いし、領収書等を企業に提出して精算
という二つの方法を問わず、このような場合は実費弁償にあたるものとして、社会保険料・労働保険料等の算定基礎には含まれない、という考え方が示されています。
厚生労働省Q&Aと国税庁FAQの関係性を整理すると下表のとおりとなります。
厚生労働省Q&A | 国税庁FAQ | |
事務用品 | Q2(1)①・② | 問3①イ・ロ |
レンタルオフィス | Q2(3) | 問7 |
なお、事務用品についての貸与と支給の考え方は(注1)に、仮払いした手当よりも実際に業務に使用した費用の方が低い場合にその差額を返還しなかった場合の取扱いは(注2)に、それぞれ示されていますが、この点も国税庁の問3に掲げられている(注)1,2と同じ考え方であり、ほぼ同じ文言が用いられています。厚生労働省は「労働者」、国税庁は「従業員」という用語をそれぞれ用いているのですが、厚生労働省の方で一か所「従業員」が用いられており、置換の漏れと思われます。
通信費・電気料金
まず、どのような場合が実費弁償にあたるかについての考え方は、上記と同じです。
厚生労働省Q&A | 国税庁FAQ | |
通信費・電気料金 | Q2(2)①・② | 問3②イ・ロ |
しかし、通信費や電気料金はそもそも、業務に要した費用と業務外に要した費用とをはっきりと分けることが困難です。この点について、
就業規則、給与規定、賃金台帳等において、実費弁償分の算出方法が明示され、実費弁償に当たるものであることが明らかである場合には、当該実費弁償部分については社会保険料・労働保険料等の算定基礎に含める必要はありません。
と言ったうえで、その算出方法については、
業務のために使用した部分を合理的に計算し、当該部分を実費弁償分とする方法(国税庁における「在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQ(源泉所得税関係)(URL: https://www.nta.go.jp/publication/pamph/pdf/0020012-080.pdf)で示されている計算方法等)などが考えられます。
と、国税庁FAQを引用しています。
国税庁のFAQは、問4~問6において、通信費、電気料金の業務使用部分の計算方法や具体的な計算例を解説しています。
計算式そのものの解説は避けますが、「業務のために使用した部屋の床面積」と「自宅の床面積」の割合を求めるといった概念が出てくる以上、この計算式を用いることは現実的ではなく、業務に要した費用と生活に要した費用が一括で請求される費用については、実費弁償に当たるように計算することは多くの場合、断念せざるを得ないという判断になるように思います。
(つづく)
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