④労働時間の状況の把握義務
管理職も事業場外みなしも労働時間の把握が義務化されることとなったのですね、しかも根拠は労働基準法ではなく、労働安全衛生法に、というところまではわかってきた方が多いと思います。
禅問答か、法律か
しかしその先の、では運用はいかに?といった細かな話になると、よくわからない感じがします。なぜなら、労働基準法上は、労働時間の規定が適用除外されていたり、労働時間を把握し難い方について、労働時間を把握せよと言っているのだとしたら、いわば禅問答のようなものとも言えるためです。
そこで、細かく見ていきますと、実は「労働時間を把握せよ」とは一言も言っておらず「労働時間の状況を把握せよ」と仰せです。ポイントはここにありそうですので、この点をみていきたいと思います。
「労働時間」と「労働時間の状況」の違い
「労働時間の把握」と「労働時間の状況の把握」は違うのです!!
と急に言われましても、ピンとこない方が多いのではないかと思います。
平成30(2018)年12月28日に発出された解釈通知「基発1228第16号」のQ&Aに示されている該当部分を引用します(8ページの問8)。
新安衛法第 66 条の8の3に規定する労働時間の状況の把握とは、労働者の健康確保措置を適切に実施する観点から、労働者がいかなる時間帯にどの程度の時間、労務を提供し得る状態にあったかを把握するものである。
なるほど「労務の提供時間」(=労働時間)ではなく「労務を提供しうる状態」が「労働時間の状況」なのですね、ということがわかります。
異なる世界観
ここで、それぞれをあらためてざっくりと整理してみます。
概念 | 根拠法 | 目的 |
労働時間 | 労働基準法 | 割増賃金の支払いのため |
労働時間の状況 | 労働安全衛生法 | 面接指導を適正に行うため |
このように整理すると、労働時間そのものとは少し異なる概念を把握する義務が労働安全衛生法に定められた意味がはっきりしてくるのではないかと思います。
事業場外みなしを例にとると、営業はアポとアポの間に随時、喫茶店に入ってタバコを喫ったり、カフェでスマホゲームに興じたりすることができるので、どこからどこまでが「労働時間」かわからない、なので、一定の時間働いたものとみなしましょうという建てつけ、説明が成り立つのが、労働基準法の世界です。
一方で労働安全衛生法の世界は、こういった考え方を許さず、労務を提供し得る状態である時間をすべて把握し、健康管理につなげよ、というより厳しいスタンスになっているということです。
「労働時間の状況」と言いつつ「労働時間」でもいい場合
はて、このときに、管理職や事業場外みなしについてはなんとなくわかった。では、一般の「労働時間」を把握できる労働者についても、別途「労働時間の状況」を二本立てで把握しなければならないこととなるのか?と疑問が湧いてきます。
この疑問は想定済みということで、問8の回答の後半のところで下記のような説明が出てきます。
なお、労働時間の状況の把握は、労働基準法施行規則(昭和 22 年厚生省令第 23 号)第 54 条第1項第5号に掲げる賃金台帳に記入した労働時間数をもって、それに代えることができるものである。
なんだ、結局「労働時間」数でいいのですね、と一安心させたうえで、
ただし、労基法第 41 条各号に掲げる者(以下「管理監督者等」という。)並びに労基法第 38 条の2に規定する事業場外労働のみなし労働時間制が適用される労働者(以下「事業場外労働のみなし労働時間制の適用者」という。)並びに労基法第 38 条の3第1項及び第 38 条の4第1項に規定する業務に従事する労働者(以下「裁量労働制の適用者」という。)については、この限りではない。
これらの者はやはり、「労働時間の状況」を把握せよということのようです。
簡単に整理すると、下表のとおりとなります。
区分 | 管理する上で用いる概念 |
下記以外の労働者 | 労働時間 |
・管理監督者等 ・事業場外労働のみなし労働時間制適用者 ・裁量労働制の適用者 |
労働時間の状況 |
高度プロフェッショナル制適用者 | 健康管理時間 |
高度プロフェッショナル制適用者は今回の本題ではありませんが、おまけでつけて整理すると、今回の改正で、労働時間以外に類似の概念が二つも加わるということがわかります。
※なお「労働時間の状況」は裁量労働制においても用いられてきた概念
休憩時間は?
いやいや、パチンコ屋に入ったり、喫茶店で仮眠している時間は、あくまでも休憩時間のはずだ、という主張をしたくなる方も出てくるでしょう。この点については、問9にその解説がなされています。
面接指導の要否については、休憩時間を除き1週間当たり 40 時間を超えて労働させた場合におけるその超えた時間(時間外・休日労働時間)により、判断することとなる。
なお、個々の事業場の事情により、休憩時間等を除くことができず、休憩時間等を含めた時間により労働時間の状況を把握した労働者については、当該時間をもって、判断することとなる。
このように、もちろん、休憩時間については除いていいわけですが、これを厳密に突き詰めていくと、労働時間を把握できるではないですか、ということになり、そもそも事業場外みなしと認められなくなるおそれも考慮しなければなりません。
厳密には労働時間ではないけれども、労務を提供し得る状態にあった時間や休憩時間、またこれらのいずれなのかよくわからないグレーな時間が多く混在する方は、全体量がかさ増しされてしまうわけですが、切り分けられない限り、健康管理についてはこの時間数をもって適切に行うように、ということのようです。
以上のほか、解釈通知には具体的な把握の方法などについてのQ&Aが出てきますが、基本的に「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」を踏襲した内容となっています。
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