副業推進にまつわる労働時間の通算問題②

2018年5月22日 | から管理者 | ファイル: 副業・兼業, 労働基準法.
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通達とQ&Aによる第38条の解釈

副業先も雇用者の場合、本業と副業との労働時間のカウントはどうすべきなのでしょうか。

〇労働基準法
(時間計算)
第三十八条 労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。
(第2項 略)

労働基準法第38条の「事業場を異にする場合」とは、昭和23年の通達によれば「事業主を異にする場合をも含む。」とされているため、違う会社の労働時間は通算しなければならない、と厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」では説明されています。
また『「副業・兼業の促進に関するガイドライン」Q&A』では、本業と副業の両方で雇用されている場合の労働時間の適用についての解説が、実例も交えながらさらに詳細になされています。
基本的なケースについてはわかりやすく説明されていますので、ここでさらに解説を加える必要はないと思いますが、現実に起こる事象はさらに複雑であり、複雑なケースがどう解釈されるかどうかについてまでは残念ながらわかりません。

13年前の研究会報告書の提言

この点については、平成17年9月15日に公表された「今後の労働契約法制の在り方に関する研究会」報告書において、下記のような記述もあります(48~49ページのあたり)。

ただし、兼業の制限を原則無効とする場合には、他の企業において労働者が就業することについて使用者の管理が及ばなくなることとの関係から、 労働基準法第 38 条第 1 項(事業場を異にする場合の労働時間の通算)については、使用者の命令による複数事業場での労働等の場合を除き、複数就業労働者の健康確保に配慮しつつ、これを適用しないこととすることが必要となると考えられる。

すなわち、副業を解禁または推進するには、その前提として、第38条の通達を改正して解釈を変えるか、第38条自体を改正するなどの措置が必要なのでは、という提言が13年も前になされているのです。
しかしながら、第38条の規定や解釈に何の改正も加えないまま、むしろ従来の解釈を支持しながらこの度の副業推進に舵を切ってしまったところに困惑の原因があると言えるでしょう。

70年どころか100周年超え

実は第38条は、昭和22年の労働基準法制定以来一度も改正されていない条文です。
70年前の規定や解釈をそのままにしておいていいのかと一瞬思いますが、この条文は、労働基準法の前身である工場法の第3条をそのまま引き継いでいます。

〇工場法
第3条
(第1項及び第2項 略)
③ 就業時間ハ工場ヲ異ニスル場合ト雖前二項ノ規定ノ適用ニ付テハ之ヲ通算ス

工場法が公布されたのは明治44年(1911年)ですので、70年どころか100年以上、規定とその解釈が改正されていないということがわかります。

(次回に続く)

【この記事の改正データベース(法改部)はこちら


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