長年あたりまえと思っていた行政文書の届出について押印(または署名)を不要とする改正が昨年来急速に進むことになりました。
その中で、36協定の改正をはじめとする労働基準法施行規則の改正については、令和2(2020)年12月22日に改正省令が公布され、3ヶ月程度の周知期間をおいて、令和3(2021)年4月1日に施行を迎えることとなります。
・令和2(2020)年12月22日付官報 労働基準法施行規則等の一部を改正する省令
・厚生労働省 労働基準法施行規則等の一部を改正する省令について
以下「押印(または署名)」と表記すると読みづらいため、「押印(または署名)」のことを「押印」と表記していきます。
改正の趣旨の確認
この改正の趣旨は、あくまでもオンライン化(=電子申請化)を前提としたときに、押印について、他の代替手段によることを認める、ということです。
その意味するところは、従来どおりの紙の様式によって届け出る際に押印が不要になったということでももちろんあるのですが、紙の様式によることを前提に考えていると、その本来の趣旨を見誤ってしまうことになりかねませんので注意が必要です。
改正の内容
以上のことをふまえて改正の内容を整理すると、下表のとおりとなります。
改正前 | 改正後 | |
紙 | 押印が必要 | 氏名を記載 |
電子申請 | 電子署名および電子証明書が必要 | 氏名を電磁的記録に記録※ |
※改正前は「電子署名および電子証明書」が必須でしたが、令和3年4月からはGBizIDやe-Govアカウントなどのアカウント(IDとパスワード)があれば電子申請できることとなる、という意味です。
労働者代表欄は?
それでは、労働者代表欄はどうなるかというと、そもそも改正前から必ずしも押印が必須となっているわけではありません。
「36協定届」は単なる届出書であり、本来別に「36協定書」というものがあるはずで、これによりすでに社内の合意形成がなされているのだとしたら「36協定届」に労働者代表の押印は不要という考えに基づくもので、長年伝統的にそのような運用をしている企業も少なからずあります。
この点について「労働基準法施行規則等の一部を改正する省令の公布等に当たり留意すべき事項について」は次のように言っています(3ページ)。
労使協定・決議に係る労使間の手続は、労使慣行や労使合意により行われるものであり、その手続に直接影響を及ぼすものではない。このため、例えば、従前から、労使協定を締結する際、記名押印又は署名により労使双方の合意があることが明らかになるような手続を取っているものについても見直しが必要であるか問われた場合、当該記名押印又は署名の手続を不要とすることが望ましいなどの教示を行わず、労使双方の合意によるべきである旨を適切に教示すること。
ちょっとわかりにくい文章ですが、労使合意の形成の方法は当事者の自由であって、少なくとも押印をなくしてよいというようなことは言わないように、というようなことが書かれています。
下記Q&Aの1-5にはもう少しわかりやすく書かれていて、
・厚生労働省 労働基準法施行規則等の一部を改正する省令に関するQ&A~行政手続における押印原則の見直し~
引き続き、記名押印又は署名など労使双方の合意がなされたことが明らかとなるような方法で締結していただくようお願いします。
「記名押印又は署名」は、あくまでも一つの選択肢であることがわかります。
整理すると下表のとおりとなります。
当事者 | 改正の内容と影響 | |
36協定届 | 事業主から行政官庁への届出 | ・使用者は押印が不要に ・労働者代表は以前から押印不要 |
36協定書 | 労使間の合意の手続 | 直接影響を及ぼすものではない。 労使双方の合意によるべき。 |
しかし一方で、パンフレットには、新たな36協定の記載例の中で、
協定書を兼ねる場合には、労働者代表の署名又は記名・押印などが必要です。
と書かれていたりします。この表現自体がただちに間違っているわけではないのですが、通達やQ&Aを読んだうえですとちょっと混乱を来します。
「わかりやすさ」を追求するパンフレットの弊害
従来どおり紙による届出を行う前提であるならば「36協定届」にて社内の合意形成を行い、そのまま郵送した方が早いという結論でよいかもしれません。
しかし通達では、合意形成の方法についての見直しは、あくまでも労使双方の合意によるものであるという消極的な言い回しになっているにもかかわらず、パンフレットには「労働者代表の署名又は記名・押印などが必要です。」と書かかれていて、ここでいう「など」は一体何を指しているのかよくわからず、かえって改正の趣旨がわかりにくくなってしまっているように感じます。
電子申請アタマで考える
わかりやすさを追求したパンフレットの表現を鵜呑みにすると、「36協定届」が「36協定書」を兼ねている場合は結局のところ何も変わらないとなってしまいそうですが、果たしてそれでおしまいにしてよいのでしょうか。
電子申請による届出を行うのであれば、従来どおり紙の「36協定届」を社内の合意形成に使用し、別途届出については、電子申請の申請画面にてその内容を入力することにより行うという切り分けになります。もしこの点がかえって面倒では?と感じるようであれば、やはり、従来どおり紙により届け出ることになるでしょう。
しかし今回の改正にはオプションがついています。
労働者代表が異なる場合の本社一括届出
過半数労働組合がある場合については36協定を本社一括届出にて届け出ることが可能でしたが、令和3(2021)年3月下旬から、事業場ごとに労働者代表が異なる場合であっても、電子申請に限り36協定の本社一括届出が可能になります(下記資料の8ページ目のパンフレットを参照)。
・厚生労働省 「労働基準法施行規則等の一部を改正する省令の公布等に当たり留意すべき事項について」
これは事業場数が多ければ多いほど、朗報です。
・厚生労働省 労働基準法に関する本社一括手続方式の変更について
執筆時点でこちらのサイトの情報は更新されていませんが、早晩情報が更新されることでしょう。
そしてさらに一歩進めて、社内の合意形成についても、社内の各種申請や雇用契約書の手続などがワークフロー化や電子申請化されつつあるのであれば、その流れに載せるという方向性もあり得るでしょう。
まとめ
コロナの影響で在宅勤務が推奨されるなか、紙の申請書に押印するためだけに出社するのはいかがなものかという視点での押印原則の見直しが急速に進められましたが、本来は、以前から進められていたデジタルファースト、すなわち行政手続を原則電子申請にしていくという流れがあり、コロナの影響でこの流れが加速したため、その本来の趣旨が見えづらくなってしまっています。この趣旨をふまえて、今回の改正についての対応を考えてみる必要がありそうです。
この改正のアーカイブはこちら。
タグ: 36協定押印廃止
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