「落選狙い」への対応の検討
育児休業給付金の延長を受けるには、自治体から入所保留通知書の交付を受け、勤務先を通してハローワークに提出する必要があります。
そもそも保育所を利用するつもりのない人が育児休業を延長するために「落選狙い」で倍率の高い保育所へ申し込み、入所保留通知書を受け取る例が広がっていることを受け、自治体が国に制度改正を求める動きが高まり、この度、内閣府が厚生労働省に対応を検討するよう要請したというニュースが流れています。
まずは大臣記者会見を読む
今年に入り、この件を問題視するニュースがネットなどでも散見さるようになってきていましたが、「育児休業の延長」の問題と「育児休業給付金の延長支給」の問題が混同されているような記事が多く、誤解が生じるのではないかと感じることがままありました。まずは、平成30(2018)年7月3日の加藤厚生労働大臣の記者会見を確認してみましょう。
ただ、育休制度ないし育休の給付金の支給そのものは、あくまでもその延長については条件があるわけです。ですから、その条件に該当しないにも関わらず育休の適用になったり、育休の給付金の支給を受けるというのは制度的な意味において不適切だと思います。
育児休業制度と給付金制度、根拠法の違いなど
一応、ここでは、育休の延長と給付金の延長が切り分けて語られているようですが、念のため、それぞれの制度をざっくりと整理すると下表のとおりとなります。
制度 | 根拠法 | 制度の概要 |
育児休業 | 育児・介護休業法 | 会社は、1歳までの育児休業を原則拒むことができない。保育所に入ることができないなどの理由がある場合は、1歳6か月まで、またはさらに2歳までの育児休業を拒むことができない。 |
育児休業給付金 | 雇用保険法 | 国は、1歳までの育児休業について、給付金を支給する。保育所に入ることができないなどの理由がある場合は、1歳6か月まで、またはさらに2歳まで延長給付が可能。 |
育児・介護休業法が定める育児休業制度は最低基準であるため、これを上回る制度(例えば理由を問わず3歳までの育児休業を認める)を導入することは不適切ではなく、むしろ子育て支援を推進する優良企業ということが言えます。
全体の企業数からすると少数ですが、大手企業ではまま見られる制度体系です。
雇用保険法に定められた条件に該当しない延長給付は確かに不適切(=あり得ない)である一方、育児休業法に定められた条件を上回る育児休業制度は育児支援の観点から国も推奨しているので、
その条件に該当しないにも関わらず育休の適用になったり、育休の給付金の支給を受けるというのは制度的な意味において不適切
という発言は、前段部分が不適切になってしまっています。
平成23年の改正を振り返る
平成23(2011)年8月5日に、運用面での細かな改正が行われました。
もう7年以上も前から入所不承諾通知書(当時)問題というのは存在し、3歳までの育児休業を認めるような先進的な企業においては、歓迎される改正でした。
改正前 | 改正後 | |
延長給付の要件 | 当初の育児休業申出書の休業の期間が1歳の誕生日の前日までとなっていること | (削除) |
すなわち例えば、最初から3歳までの育児休業を会社に申し出ていたとしても、入所不承諾通知書(当時)を提出すれば、延長給付を受けることができるようになった、という内容の改正です。
・厚生労働省 「育児休業給付金延長の取扱い一部変更についてのお知らせ」
その後、育児休業を取得する人の増加や、待機児童数の問題、1歳6か月から2歳までの延長給付が可能となった改正など、様々な要因が重なって、潜在していた問題が一気に顕在化したということのようです。
自治体の要請は、保留通知書がなくても育休延長給付を受けることができるよう制度改正を求めるということのようですが、過去の経緯からしてもそう一筋縄でいく話ではなく、まずは現行制度や改正の経緯の正しい理解が広まることが望まれます。
【この記事の改正データベース(法改部)はこちら】
タグ: 保育所落選狙い問題
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