トイレの設置基準などについての改正①

2021年10月21日 | から管理者 | ファイル: 労働安全衛生法.
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厚生労働省は「事務所衛生基準のあり方に関する検討会」を令和2(2020)年8月から6回にわたり開催し、社会状況の変化を踏まえて、清潔保持や休養のための措置、事務所の作業環境等の規定について、検討を行ってきました。
その報告書が令和3(2021)年3月にとりまとめられ、その後労働政策審議会安全衛生分科会における審議を経て、事務所衛生基準規則及び労働安全衛生規則(以下「事務所則」と表記します)の改正が行われようとしているところです。

「便所」とは

現代においては「トイレ」という用語が一般的で、「便所」という用語を使うケースは日常生活上はまれのように思いますが、法令上そのような用語になっていることから、上記検討会報告書においても「便所」という用語が普通に使われています。そして、その類型は下表のとおりとなっています。

類型 定義 法令上の便所
仕切り壁型 仕切り板又は上部若しくは下部に間隙のある壁等により便房を構成している方式
独立個室型 個室に1つの便房が設置された方式

ここで重要なのはその用語や定義もさることながら「独立個室型」の「便所」は現行法令上(=事務所則上)では「便所」とは認められていない、ということです。
この点につき、報告書は下記のように述べています(5ページ)。

…個室に1つの便房が設置された方式(以下「独立個室型」という。)のものも多くみられるが、その場合、1つの便房を事務所則における便所とする考え方も可能である。

「考え方も可能」と、ややひかえめなスタンスです。
なぜ「独立個室型」は便所ではないということになっているかというと、事務所上は便所を男性用と女性用に区別することとなっているにもかかわらず、多くの場合「独立個室型」は男性用と女性用に区別されていないためで、逆にいえば、独立個室型でも男女別に明確にわかれているものであれば、事務所則上の「便所」として認められるということです。

「バリアフリートイレ」は?

そこで近年多く見受けられるようになってきた「バリアフリートイレ」はどうなるのかというと、報告書は下記のとおり述べていて、

独立個室型の便房からなるバリアフリートイレであっても、男性用と女性用に区別されていない便所については、現行の事務所則における便所として取り扱われていない。

ということになります。
一方で下記のとおり、下記のような多様なニーズが発生しており、

バリアフリートイレを性的マイノリティ等多様な労働者が利用することもあることなど、便所に対するニーズは多様化している。

男女別にわかれていないものの方がよい、と考える方もいるということを理解する必要があります。そのうえで、

一方、バリアフリートイレの多くは男性用と女性用を区別しない独立個室型の便房からなる便所であり、男性用と女性用を区別しない方式の便所に対するニーズにも対応可能である。このため、事業場が、労働者の多様なニーズに対応するため、バリアフリートイレを含む、男性用と女性用を区別しない独立個室型の便房からなる便所を設ける場合に、当該便所を事務所則に基づく便所として位置付けることにより、事業場の多様な選択肢を確保することは重要である。

と述べています。

トイレの設置基準を定める事務所則第17条は、昭和47年の制定以来50年近く実質的な改正は行われておらず、社会状況の変化やニーズの多様化に対応するというのが、改正の趣旨であると言えるでしょう。

少人数の事務所についての例外

このような長い期間を経た大きな変化の中で、検討事項の一つとしてあげられたのが、少人数の事務所における男女別の取扱いです。

少人数の事務所においては、建物の構造上1つの便所しか設けられていないことがあり、便所を男性用と女性用に区別して設置することが困難な場合もある。

マンションなどを事務所として使用としているようなケースが想定されています。

少人数の事務所に設けられた便所のうち、独立個室型の便房からなるものについては、男性用及び女性用の便所の機能を兼ねるものとみなす等の柔軟な運用を行うことは、プライバシーが確保されるという前提の下、例外的に認められ得る。

「男性用及び女性用の便所の機能を兼ねるものとみなす」という表現はなかなか遠回しな表現ですが、現行の事務所則上の「便所」の定義には含まれておらず、今回の検討において、

事務所則における便所とする考え方も可能である。

という画期的な考え方が打ち出されたことがまずベースにあることを理解できていないと、違和感を感じざるを得ません。
「独立個室型」も当然「トイレ」でしょ、という当たり前の感覚とはちょっと異なる世界の話なのです。

パブリックコメント

その後、省令の改正案が取りまとめられ、パブリックコメントにて意見募集が行われました。6月28日から7月27日までの期間で、すでに意見募集は終了しています。

・パブリックコメント 事務所衛生基準規則及び労働安全衛生規則の一部を改正する省令案に関する意見募集について

このページに改正内容の概要を示す下記資料があるのですが、

事務所衛生基準規則及び労働安全衛生規則の一部を改正する省令案(概要)

当然ここでは結果としての改正事項しか示されないため、男女を区別しないことを許容する例外規定の部分だけが示され(2(1)イ①)、2(1)イ②は、男女別のトイレがある隣にバリアフリートイレがあるようなケースについて、そのバリアフリートイレも個数として算入してよいこととなります、ということが書かれているわけですが、そのことがすぐにはよく理解できない表現になってしまっています。

このパブリックコメントに1,500件を超える意見が寄せられることとなりました。


コメントは締め切りました。