法の履行確保のための措置がそれぞれどのように改正がされたかについて見ていきます。
・行政指導(報告徴収、助言、指導、勧告)
・勧告に従わない場合の企業名公表
・裁判外紛争解決手続(行政ADR)
・罰則
行政指導(報告徴収、助言、指導、勧告)
行政指導に関する内容が記載されている第18条は、下記のとおり改正がありました。
パート | 有期 | |
行政による助言・指導等 | 〇→〇 | ✕→〇 |
対象に有期雇用労働者が加えられた改正のみで、どのような場合に行われるかというと、
○パート有期労働法
第18条 厚生労働大臣は、短時間・有期雇用労働者の雇用管理の改善等を図るため必要があると認めるときは、短時間・有期雇用労働者を雇用する事業主に対して、報告を求め、又は助言、指導若しくは勧告をすることができる。
短時間・有期雇用労働者の「雇用管理の改善等を図る必要があると認めるとき」とする内容に変わりはありません。企業名公表などの他の措置が対象となる内容を具体的な条文で指定しているのに対して、こちらは漠然としており、第8条の「均衡待遇」も対象として含まれています。
必要な場合に報告が求められ、法違反があると、助言や指導・勧告へとつながっていきます。
令和3(2021)年度の地方労働行政運営方針では、
・厚生労働省 令和3年度地方労働行政運営方針について
「雇用形態に関わらない公正な待遇の確保」として、下記のような事項が掲げられています(26ページ)。
(3)雇用形態に関わらない公正な待遇の確保
パートタイム・有期雇用労働法及び労働者派遣法に基づく報告徴収等を実施することにより、法の着実な履行確保を図る。あわせて、新型コロナウイルス感染防止の観点から、オンラインを活用した説明会等を行うとともに、同一労働同一賃金等に取り組む先行企業の事例の収集・周知等を実施することにより、非正規雇用労働者の待遇改善にかかる事業主の取組機運の醸成を図る。
勧告に従わない場合の企業名公表
第18条第2項には、上記の勧告までに至った場合に、その勧告に従わなかったときは、企業名を公表するという制度です。
公表制度の対象は、具体的に条文が定められていて、下表の各条の規定に違反しているケースとなります。
条項 | 内容 |
第6条第1項 | 労働条件の文書交付 |
第9条 | 均等待遇 |
第11条第1項 | 教育訓練の実施 |
第12条 | 福利厚生施設の付与 |
第13条 | 正社員転換措置 |
第14条 | 説明義務 |
第16条 | 相談体制の整備 |
第18条第2項には今回、有期雇用労働者が対象とされた以外は改正はありませんでしたので、第8条の「均衡待遇」は改正前からも改正後も、公表制度の対象にはなっていません。
第8条の「均衡待遇」は、報告の徴収から助言や指導・勧告については「雇用管理の改善等を図る必要があると認めるとき」に行うことができることとされるため対象になりますが、たとえ勧告に従わなくても企業名公表の対象にはなっていないということです。
裁判外紛争解決手続(行政ADR)
裁判外紛争解決手続(行政ADR)については、下表のとおり改正がありました。また、有期雇用労働者も対象となりました。
条項 | 内容 | 改正 |
第6条第1項 | 労働条件の文書交付 | 〇→〇 |
第8条 | 均衡待遇 | ✕→〇 |
第9条 | 均等待遇 | 〇→〇 |
第11条第1項 | 教育訓練の実施 | 〇→〇 |
第12条 | 福利厚生施設の付与 | 〇→〇 |
第13条 | 正社員転換措置 | 〇→〇 |
第14条 | 説明義務 | 〇→〇 |
第16条 | 相談体制の整備 | 〇→〇 |
上表の〇→〇とされた項目は、これまでも都道府県労働局において無料・非公開の紛争解決の手続を受けることができましたが、今回の改正で第8条の「均衡待遇」についても対象として加わりました。
罰則
罰則については、改正はありませんでした。整理すると下表のとおりです。
条項 | 内容 | 違反内容 | 改正 |
第6条第1項 | 労働条件の文書交付 | 第6条第1項の違反 | 10万円以下の過料 |
第18条第1項 | 報告の徴収 | ・報告をしないとき ・虚偽の報告をしたとき |
20万円以下の過料 |
第8条の均等待遇についての整理
均等待遇についての各制度の改正をまとめると下表のとおりとなります。
改正前 | 改正後 | |
行政指導(報告徴収、助言、指導、勧告) | 対象 | 対象 |
勧告に従わない場合の公表 | 対象外 | 対象外 |
裁判外紛争解決手続(行政ADR) | 対象外 | 対象 |
一連の改正については、ガイドラインの内容そのものを中心に取り上げられることが多く、上記のとおり整理した改正内容が取り上げられることはあまりありません。
しかし法の履行確保のための措置がどのように改正されたかを概観すると、行政側がこの改正をどう捉えているかが見えてくるところがあると思います。
(終)
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