雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保を目指して、パート労働法の改正が行われました。大企業は令和2(2020)年4月1日から施行され、中小企業は適用が1年間猶予されていましたが、その経過措置が終了し、令和3(2021)年4月1日から適用となりました。
名が体を表さない
キャッチフレーズに踊らされて買った商品やサービスが、実際にはその中身を表しておらず、キャッチーなコピーに食いつかずにきちんと吟味すればよかったと後悔することはよくあることです。
法律の世界でもこれに似たようなことが少なからずあり、取り急ぎ、法改正があったということを周知したいという思いが優先されると、名が体を表しているかという点はさておき、こういうことが起きてしまうわけです。
法改正が行われても、法改正があったということさえ知らなかった、ということはよくあることで、周知すべきことを切り分けると、
A 法改正があったということを知らせる
B その法改正の内容を知らせる
という二段階があるとしたら、本来はもちろんBまで同時に行いたいわけですが、Aが優先され過ぎるとBがおろそかになるというジレンマがあります。
急がば回れ
今回の法改正においては、判断の際の具体例を示したいわゆる「同一労働同一賃金ガイドライン」がつくられたため、改正の内容を理解するためにガイドラインの内容が解説されることが多いわけですが、一見遠回りのように見えても、法律に書かれていることがどのように変わったのかについてをまず押さえることが実は近道だったりすることはよくあります。
イコールとバランス
パート・有期雇用労働法には、雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保を目指すために、大きく分けて二つの考え方が示されています。
職務の内容をはじめとした様々な事情 | 禁止される内容 | ||
A | 均等待遇 | 同一の場合 | 差別的取扱いを禁止 |
B | 均衡待遇 | 異なる場合 | 不合理な待遇差を禁止 |
Aはすなわち、職務の内容などの事情がすべて同一である場合は、賃金などの待遇は同一(=イコール)でなければならない、ということです。
Bはすなわち、職務の内容などの事情が異なる場合は、不合理な待遇差は許されず、バランスの取れたものでなければならない、ということです。
この対比からおわかりいただけることは、「同一労働同一賃金」という言葉は、AまたはBのどちらを指しているかというと、Aを指しているということです。均等待遇と均衡待遇という言葉は、字面も読みもかなり似通っているため、日本語で表現するとぱっとわかりづらく、「イコール」と「バランス」と表記した方がわかりやすいかもしれません。
「同一労働同一賃金」という見出しだけを聞いたときに、パートでも同じ仕事なら賃金を社員と同じにしなければならないの?という素朴な疑問が浮かんでしまうと思いますが、決してそういうことではないのです。
厚生労働省ももちろん、その辺りは慎重に意識していて、例えば、次のリーフレットでは、
・厚生労働省 リーフレット 「雇用形態に関わらない公正な待遇の確保」
改正内容の見出しとしては「雇用形態に関わらない公正な待遇の確保」という言葉を用いたうえで、ガイドラインを「同一労働同一賃金ガイドライン」と称するという、使い分けを行っています。
(つづく)
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