中央省庁の障害者雇用に関する検討委員会報告書

2018年10月26日 | から管理者 | ファイル: 障害者雇用促進法.
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中央省庁の障害者雇用率水増し問題についての第三者検証委員会の報告書が、平成30(2018)年10月22日に公表されました。

国の行政機関における障害者雇用に係る事案に関する検証委員会 報告書

過去の法改正の経緯をはじめとして、厚生労働省と各行政機関への調査結果などが詳細に記述された72ページにも及ぶ資料となっています。

筆者は、この問題が報道で取り上げられた際に、平成17(2005)年に障害者雇用納付金の申告事務に関するガイドラインの内容が以前と比べて強化されたことを思い出しました。その際、少なくとも民間企業に対しては、障害者手帳をきちんと確認するなどの確認方法が周知徹底されたわけですが、国の行政機関に対しては、同様の周知がなされなかったのだろうか、という疑問が湧いたのでした。

平成 17 年のガイドライン発出時における対応の問題

報告書55ページの、見出しの項目において、下記のような記述があります。

もっとも、その民間事業主向けのガイドラインを国の行政機関に送付する際の通知の記述には、「本ガイドラインは、障害者の雇用の促進等に関する法律に基づいて民間企業の事業主が行う業務の手続に即して、把握・確認の具体的な手順及び禁忌事項等を示しているものですが、貴府省庁においても、障害者の把握・確認を行う際には、本ガイドラインに準じた適正な取扱いに努めていただくよう、よろしくお願いいたします。」とあるだけで、各機関にしてみれば、そのガイドラインの位置付けが国の行政機関にもそのまま適用されるものであるのか否かの疑義が生じ得るものになってしまったことは否定できない。

いったい何が「よろしくお願いいたします」なのかわかりませんが、この記述を読み、やはり、民間企業とは異なる周知方法がなされていたのだなとある意味納得しました。
平成17年の民間企業向けのガイドラインを読めば「ああ、事務処理としてはちょっと面倒なことになるけれど、そりゃあ、ちゃんと確認しないとだめだよね」と受け止めるのがごくふつうの感覚だったのではないかと思います。

中央省庁のほんの一部で問題が起こっていたのではなく、そのほとんどで同様の問題が起こっていた原因は、各省庁における運用の問題も然ることながら、やはり、法令の内容を周知したり、遵守を指導する側により原因が大きくあったと捉えざるを得ないわけですが、このように、民間企業に比べて手綱を緩める趣旨がわかるような文書が存在していたことが、(「原点は解明できなかった」といったコメントもあるようであるものの)、一応、明らかになりました。

教訓

本件については、批判しようと思えばいくらでも批判できますが批判は他の文献等に譲るとして、法令の周知とその理解というものがいかに難しいかという教訓になるだろうと考えます。

法令はその条文を読んでもその趣旨や意味が分からないことが多いため、通知やガイドライン、Q&A、各種リーフレットなどによってその周知が図られるわけです。

「ガイドラインに準じた適正な取扱いに努めていただくよう…」という文書を起案した方が、省庁は別に確認しなくてもいいんだよ、よろしくやってね、という意味合いで書いたとまでは思えませんが、ほとんどの省庁がいいように受け止めてしまったわけです。しかしこのところ、法令に対するスタンスだけでなく何事においても「ばれなきゃいい」という時代ではなくなってきており、「ばれなきゃいいんでしょ」とすることの方がかなりの勇気がいることで、以前よりもはるかにリスクの高い行為になってきていることはあらためて指摘するまでもありません。

法律に書かれているその制度の理念や趣旨と、施行規則や通知などに記載される手続の方法や運用の詳細とには、乖離が生じることも少なくなく、今回のような「見て見ぬふり」「ことなかれ主義」だけでなく、「悪気はまったくない」「よかれと思ってやっていた」ことさえも、実は制度の趣旨には反している、といったことになるおそれもあります(最近の事例では扶養異動届に関する添付書類のルールの変更など「平成30(2018)年9月21日付小欄「平成30年10月1日から健康保険の被扶養者認定事務に変更がある件」参照)。

法律だけ読んでも詳細はわからず、通知やガイドラインをかいつまんで読んでもその趣旨までは理解できず、といったことではどうしていいかわかりませんが、ここに時間がかかるという負担や人件費が増えるなどといったリスクはあるものの、正しい理解に努めることの方がリスクが低い世の中になってきているということなのでしょう。


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