副業推進にまつわる労働時間の通算問題③(終)

2018年5月31日 | から管理者 | ファイル: 副業・兼業, 労働基準法.
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労働基準法第38条と工場法第3条の違い

労働時間の通算について規定している労働基準法第38条は、労働基準法の前身である工場法の第3条をそのまま引き継いでいる、とされています。

〇工場法
第3条
③ 就業時間ハ工場ヲ異ニスル場合ト雖前二項ノ規定ノ適用ニ付テハ之ヲ通算ス

やや読みづらいので、現代語訳をすると下記のとおりとなると思います。

〇工場法
第3条
③  就業時間は、工場を異にする場合においても、前二項の規定の適用については通算する。

労働基準法第38条と比べてみましょう。

〇労働基準法
(時間計算)
第三十八条 労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。

引き継いでいるとはいえ若干表現が違いますので、異なるところを整理すると下表のとおりとなりますが、

工場法第3条 労働基準法第38条
就業時間 労働時間
工場 事業場
前二項の規定 労働時間に関する規定

実質的に気になるのは「前二項の規定」→「労働時間に関する規定」のところになると思います。「前二項」を見てみましょう。

〇工場法
第3条 工業主ハ十五歳未満ノ者及女子ヲシテ一日ニ付十二時間ヲ超エテ就業セシムルコトヲ得ス
② 主務大臣ハ業務ノ種類ニ依リ本法施行後十五年間ヲ限リ前項ノ就業時間ヲ二時間以内延長スルコトヲ得
(※制定当時の条文)

第1項は「12時間労働制」を規定し、第2項は15年間の経過措置としてさらに2時間延長することが可能との規定がなされています。
工場法の時代は、そもそも割増賃金という概念が(法律上の規制としては)なく、1日の労働時間そのものについてのみ通算するとしていることがわかります。

一方、労働基準法第38条の「労働時間に関する規定」とは何を指しているのでしょうか。
この点について労働基準法に関する文献や解説は、単に労働時間を通算するという意味だけではなく、割増賃金に関する規定のほか労働基準法上のすべての労働時間に関する規定が適用される、という趣旨の解説をしているものが多いようです。

100年という歳月を経て

おおよそ100年前の明治の時代の過酷な「12時間(または14時間)労働制」下における複数の工場での(望まざる)労働と、平成も30年を経て新たな時代を迎えようとしている「8時間労働制」下における副業推進時代の(本人が望むケースもある)働き方とでは、その意味や位置づけ、法規制として求められているものが異なっているはずなのは明らかであるように感じます。
もちろん現代においても本人が望まないにもかかわらず副業をせざるを得ない状況も少なからずあることには留意が必要です。

①あいまいな表現が残る第38条自体を改正する
②第38条自体はそのまま残し、解釈を変更する
A 「事業場を異にする場合」を同一事業主の場合に限定する(ただし、グループ企業内の「兼務出向」のような場合は通算する調整も必要)
B 異なる事業主の場合についても労働時間そのものの通算については適用するものの、割増賃金の支払いについては適用除外とする(例えば36協定の締結は必要だが、0.25の割増の支払いは要しないなど)

方法はいろいろと考えられますが、上記のような方向性での検討、改正が行われない限り、副業解禁とは言うものの副業先での雇用契約はダメといった、限定的な副業解禁という選択をせざるを得ない状況が続くのではないでしょうか。

【この記事の改正データベース(法改部)はこちら


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